我が国に救急救命士制度が取り入れられた経緯
「パラメディック」という言葉を聞かれたことはありますか?
テレビドラマの『ER』などで耳にされたことがあるかもしれません。パラメディックとは、「パラシュートで飛び降りて、医療援助を行うように訓練された兵士」のことを言います。戦いの中で、ケガをした味方の兵士がいるという連絡を受けると、すぐに飛行機かヘリコプターで現場に出かけ、パラシュートで飛び降りて治療を行います。
もともと衛生兵(メディック)制度はあったのですが、重傷のケガをした兵士の手当は、血を止めたり包帯を巻いたりするというような処置では命は救えませんでした。もっと高度な医学の知識や医療技術を特別に教育する必要があったのです。そこで生まれたのが、パラメディックでした。パラメディックの「パラ」という言葉には、「そばに」とか「横に」という意味があります。戦いの現場に出向き、ケガをした兵士に臨時の応急処置をし、医療行為をしながら後方の野戦病院まで搬送する仕事をしたのが、パラメディックの人たちでした。
アメリカのパラメディックが行っているような、病院へ着く前に医療行為を行うようなしくみを、「病院前救急医療体制」と呼びますが、この体制を日本でも取り入れるようになったのは、実は平成に入ってからです。
たとえば、誰かが病気またはケガをしたとします。119番通報しても、救急車が到着するまで約6分かかります。それから病院へ搬送するのでは、病気やケガが進行したり、急変したりするおそれもあります。救急車の中で医療行為ができれば、命が助かる場合は多々有ります。その救急救命処置を行えるのが、「救急救命士」です。
それまでの消防機関に所属する救急隊は、病人やケガ人を病院へ「搬送する」ことが仕事でした。懸命に活動する救急隊員を揶揄して「運び屋」と言われていた時代があったのです。
それでは救命率を高めることができない、と国民世論が急速に高まり、1991年(平成3年)4月23日に「救急救命士法」が成立。同年8月に施行。救急救命士国家試験に合格した者だけが、厚生労働大臣の免許を受け、救急救命士法に基づき、救急救命処置を行うことができるようになったのです。