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コラム

「永遠」ということ ~伊勢神宮のススメ その2

 伊勢神宮で行われる有名な神事の一つに、「式年遷宮」があります。式年遷宮は、内宮・外宮と呼ばれる二つのご社殿を、境内の別の場所へ新たに建て直し、ご神体を移すというだいじな神事。ごく簡単に言えば神様の新居へのお引越しで、これがおよそ1300年前も前から、20年ごとに行われています。
 それゆえご社殿は、古代とまったく同じ様式を保ちながら、常に新しく、瑞々しく、損なわれることなく存在し続けています。これは伊勢神宮の伝統である「常若」という思想を象徴するものです。
私たちは人も物も、その姿や命が永遠でないことを知っています。しかしだからこそ、大切な自分や愛しいものがいつまでも若く、瑞々しく、美しく、滅びることがないよう願うのです。
それは昨今のアンチエイジングブームに始まったことではなく、大昔から連綿と続く人類の究極の願い、と言っていいのかもしれません。さまざまな時代の、さまざまな国のさまざまな人々が不老不死を願い、多くの時間とお金を費やして研究がなされ、錬金術や薬など、あらゆる分野からのアプローチが行われてきました。
そして今日、私たちの平均寿命は、その時代の人々が聞けば驚くほどに長くなってはいるのですが、それでもやはり私たちは依然として老化や死から逃れることはできません。そして今も昔と同じように、いつまでも新しく古びないもの、衰えないもの、常に若々しく美しいものを愛し、永遠に続くものを追い求めているのです。
 たとえば世界中にある古代の神殿や古墳、城や聖堂やなども、そういった「永遠」への祈りや願いが込められた建造物であり、人々の心のよりどころであったのでしょう。しかし硬い岩や石で造られた建造物に比べ、木や草(萱)で造られる日本の神殿の寿命は、それよりずっと短いものです。だから日本人は、同じものを常に新しく建て替え続けることによって、その生命を永遠につなげる方法を選んだのです。
だからと言って、せっかく造ったご社殿をたった20年で建て替えてしまうなんて、あまりにももったいない。エコじゃない。ものや伝統を大切にする日本人らしくない、と思われるかもしれません。確かに遷宮をするためには約1万本ものヒノキが必要で、中には樹齢500年を超える巨木も含まれています。
しかし、そこは古い伝統や自然を守る伊勢神宮。新しい神殿を作るための木材は、100年後200年後、そのもっと先までを見据えて植林され、山や森の保全が続けられます。また、役目を終えた古い神殿の棟持柱は、宇治橋の大鳥居にリサイクルされ、続いて別の場所の鳥居として、さらにその後は全国の神社のお社などにも再利用されていきます。
 そしてそれだけでなく、実はこの20年という数字には、とても大きな意味があるのです。確かにピラミッドや万里の長城、西洋のお城や聖堂のような石造りの建物なら、20年ごとに造り替えるなどまったく無意味。硬い石や岩で造られた巨大で頑丈な建物は、永遠にその姿を留めることができるだろう、と当時の人たちは考えていたことでしょう。
しかし岩や石でさえ、永遠ではありません。人々の想像を超えるほどの時間が経過するうちに風化は進み、やがて崩れ落ちる日がやってきます。そして建設のときから長い時間が経てば経つほど、その意義や目的、用途などを特定するのは困難になり、設計や建築技術などに関する謎も深まっていきます。それゆえ完成時の完璧な姿を再現することは、現代の技術を持っても不可能、と言われているのです。
 しかし20年ごとの建て替えを繰り返す伊勢神宮は、ヒノキの素木を使った唯一神明造という日本最古の神社建築様式を、2000年の時を超えて鮮やかに今に伝えます。
それは新しいご社殿を造る、現在の現代の名工・名匠と呼ばれる人々の卓越した技術が、はるか昔に存在した名工・名匠たちから、途切れることなく受け継がれてきたことを、またここから先の未来へもしっかりと繋がっていくことを意味しています。
その鍵となるのが、「20年に一度」というタイミングです。20年ごとに建て替えが行われるからこそ、初めての遷宮を経験した若者が少しずつ仕事の腕を上げ、やがて脂の乗りきった壮年になる頃、次のそれがやってきます。しかしもし「30年後」ならば、今ほど寿命が長くなかった時代、バトンを受け取った若者がそれを次の世代に伝える機会はやって来ないかもしれません。
20年というサイクルは、文化や伝統、そして技術を次の世代にしっかりと引き継ぐために、最適な時間だったのです。 
永遠ではないものの生命を永遠に伝えるため、日本人は頑丈な「ハード」ではなく、その文化や技術を人から人へ確実に伝える、というソフトを継承する方法を選びました。
形を伝えるのではなく、心を伝える。そうすることによって、私たちの永遠ではない命や文化が、次の世代へ、そしてまた次の世代へと、常若のまま伝わっていくのです。
 

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